昔々ある国にとても美しいお姫様が生まれました。
王様はこのお姫様をとても可愛がり、絵描きに沢山の

肖像画を描かせました。
絵描きは、お姫様の美しさに感激して、懸命に

絵を描きました。
ところがある絵を描いているとき、緊張のあまり、

お姫様の小指を描き忘れてしまい、
怒った王様によって殺されてしまいました。

けれどもその絵は、誰もが涙を流すほど
の美しい出来映えでした。

お姫様は15歳になった頃となりの国の王子さまと

結婚しました。
王子様も、花のように可愛らしいお姫様を愛し、お姫様と一緒に、お姫様の絵も持って行きました。
その中には、小指の無いお姫様の絵もありました。

いつの頃からか、描かれたお姫様の小指の部分に、

見た事のない羽虫が付くようになりました。
その虫は蛾のようでもあるし、蝶のようでもあるの

ですが、その色は真っ赤でした。
一匹退治しても、いつの間にかどこからかやってくるのです。
お姫様は気味悪がって、小指の無い絵をどこかにしまうよう命じました。

しばらくすると、

お姫様が小指が痛いと泣き出しました。
王子様は国中から占い師や医者を集めて、その原因を探しましたが、全くわかりません。
仕方なく、国中で嫌われている魔女に話を聞くと、魔女は絵が食べられている、といいます。
王子様はしまった絵を取り出すと、小指の部分にあの

羽虫が何匹も群がっているのを見つけました。
すぐにその羽虫を退治すると、お姫様の小指の痛みも

なくなりました。

ところが次の日、

お姫様がまた痛い痛いと泣いています。
王子様が絵を見ると、そこにはまた羽虫がいました。
ところが、今度は絵の中に描かれているのです。

絵の中の羽虫は退治できないので、
王子様は絵描きに、その羽虫を絵の具で塗りつぶすように言いました。
羽虫を塗りつぶすと、お姫様の痛みもなくなりました。
ところが、すぐに羽虫が浮かび上がってしまいます。困った王子様は、この絵を壊す事にしました。

絵描きが大きな筆で真っ白な絵の具をたっぷりとつけ、絵の中のお姫様の手を塗りつぶすと、
途端にお姫様が泣き叫びました。

王子様が振り返ると、

なんとお姫様の手がありません。
王子様は急いで、

絵描きに手を描きなおすよう命じました。

絵描きが手を描くと、
お姫様の手もすっかり元通りになりました。

また次の日、今度はお姫様が胸が痛いと泣きました。
王子様が絵を見ると、

羽虫の絵がお姫様の心臓から血を吸い取っています。
絵の中のお姫様の顔も、真っ白になっています。
王子は絵描きに命じて、羽虫の絵をつぶしてお姫様の胸を描き直させます。
ところが、お姫様の痛みはやまず、

また羽虫の絵が浮かんできました。
王子様は意を決して、

絵描きから黒い絵の具を奪うと、

手ですくって、

お姫様の胸に塗りたくりました。
すると、

絵の中のお姫様のほほはバラ色に染まり、

蜜が輝く唇は微笑み、

青い瞳が宝石のように輝き、

金糸のような髪が揺らめきました。
横たわるお姫様の痛がる声もやみました。

お姫様は真っ白になって、

もう二度と目を覚ます事はありませんでした。

2013(長沢秀之「心霊画」へ寄稿)

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